友人のサイクリストN氏は、静岡ではちょっと名の知れたお米屋さんで、有機農法のお米を扱うだけでなく、その田んぼの田植えや刈取りにお客さんも参加できるという面白い試みをやっている人だけれど、私が、「自転車旅は芸術だ、たとえ彼自身がその行為の意味に気づいていなかったとしても」という意味のことを書いて大風呂敷を広げたら、「この芸術論に大賛成!僕の『田圃はアート』だと同じです。実は最近その田圃へ往復60km自転車で通っているのです。
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」というメールをくれた。田んぼは確かにアートであろう。それは限られた人だけが愉しむ小乗仏教的なアートでなくて、日本人の誰もが身体を通して全的に味わうことのできる、大乗、一乗のアートである。そして田んぼのほかにも忘れられぬ農の風景がいくつもある。果樹園も私の大のフェイバリットだ。1996年の5月に、長野県飯田市の郊外をスローに走ったときは、桜の花びらが春風に乗って舞う中で、林檎の花咲く河岸段丘を見た。その8年後の2004年11月、ほぼ同じ辺りを、3泊4日の実験自転車ツアーで仲間とともに通りかかったとき、農家の人が林檎をくれた。もぎたてのその旨さを忘れることができない。また、野辺山の野菜畑も忘れえぬ風景のひとつだ。どこということもないが、晩秋から冬場にかけての山里に並ぶ大根干しの光景も秀逸。信州の白馬や、会津で目の当たりにした、蕎麦の白い花の海も良き思い出。群馬の赤城山の麓に広がる牧草地もなかなかのものだった。秋田の米代川の土手の傍らの道では、夏の雨の中を山羊が草を食んでいたけれど、あれも農の風景のひとつだろう。